電子レンジは、人類が火の発見をして以来の新しい調理法だった

かるの

2012年06月03日 14:16



忙しい時のお料理に欠かせない電子レンジ。ご存じのとおり、電子レンジとはマイクロウエーブ加熱により、直接的にも間接的にも火を使わずに食品などを加熱調理する調理器具です。その調理法故に、チャールズ•パナティという人は、電子レンジはホモエレクトスが火を発見して以来のまったく新しい調理法だと述べています。

電子レンジの原理と歴史

原理としては、マイクロウエーブが照射されると、食品中の水分子を分極させ、極性をもつ電子双極子をつくり、マイクロウエーブを吸収して振動・回転させ、分子間に摩擦熱を引き起こします。この熱を利用しているのが電子レンジです。しかし、マイクロウエーブは電子レンジのために開発されたわけではありません。マイクロウエーブのエネルギーをつくりだす電子管は、電子レンジが誕生する前からイギリスで開発され、使われていました。

当時は世界大戦の真っ只中。第2次世界大戦では飛行機が戦争に使用されるようになりました。その対抗策として飛行機の飛来を早く発見する目的でレーダーの開発に力が注がれます。レーダーに使用する周波数は高い方がより小さな物体を発見することができることから、マイクロウエーブ発生装置の研究が進み、強力なマイクロウエーブの発生装置が英国で開発されたのです。つまり、マイクロウエーブは、おいしい料理のためではなく、兵器として開発されたということです。その成果は米国にも寄贈され、更なる改良研究が進められていきました。

このマイクロウエーブが料理に使えることの発見は、まったくの偶然でした。1946年、アメリカのレイセオン社の技術者であったパーサー•スペンサーが実験をしていた時、ポケットに入っていたチョコレートが溶けて柔らかくなっているのに気がつきました。そこで、彼はポップコーンの殼粒を電子管のそばに置いてみたところ、数分で殼粒がはじけました。次に生卵を使ってみたところ、これも加熱することが判明。こうして、思いがけず、マイクロウエーブが料理に使えることに気がつくことになったのです。

あまり売れなかった初代商業用電子レンジ

レイセオン社は、これを契機に商業用の電子レンジの開発に乗り出し、「レーダーレンジ」という名称で発売します。しかし、売り上げは消して芳しいものではありませんでした。というのも、レーダーレンジは、とにかく高価だった上に、冷蔵庫並みに大型、おまけに水冷式であったことから配管工事も必要で実用的ではなかったのです。

さらに、均一な加熱ができないという問題もありました。 調理時間を短縮できるという利点から、鉄道や遠洋定期旅客船のレストラン用に少し売れたものの、利益をうみだすほどではなく、同社はやがて発売を中止します。1958年にタッパン社で発売したレンジは、今の電子レンジの基本的なデザインに近かったそうですが、やはり高価で普及には至りませんでした。

日本に目を転じると、1961年に、日本無線・レイセオン社の合弁会社として新日本無線株式会社が発足、日本でも電子レンジが開発され、翌年にまず業務用電子レンジの生産が開始されました。1963年には、 松下電器が電子レンジを開発、販売を開始します。そして、1965年に、同社が初の家庭用電子レンジ発売。

さらに、1966年にシャープはターンテーブル方式採用の電子レンジを開発、家庭用として発売します。やがて、マグネトロンに関するレイセオン社の基本特許の有効期限が切れると、松下電器産業(現・パナソニック)、株式会社日立製作所などが電子レンジ用マグネトロンの生産を開始、電子レンジの普及も加速されていきました。こうして、電子レンジは、加熱時間を短縮できるという最大の利点を武器に家庭に受け入れられ、2000年代後半にはその普及率は90パーセント後半を維持しています。電子レンジは、レトルト食品の普及を促すという役目も果たしました。

スチーム、省エネ、焦げ目……ますます進化する電子レンジ

最近の電子レンジの進化は目覚ましいものがあります。多くの製品がオーブンレンジという名前で呼ばれ、電子レンジにオーブン機能を組み合わせたものとなっています。レンジの中に、上下2本のヒーターが付いていて、上部のヒーター1本を利用するグリル機能では、食べ物に焦げ目を付けることができます。これでケーキやピザを焼いたり、グラタンを作ったりすることは当たり前になりました。

さらに、省エネを考えた電子レンジや、スチームを発生させ、ラップをかけずにあたためができるものも発売されています。ドラえもんで、未来の調理器具として、ボタンを押せば料理が飛び出てくるものがありましたが、今の電子レンジは、それに近い。上手に使いこなすと、ぐっと料理のバラエティが広がりますよ。


(2012年2月16日- kmonos)

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