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スペインの洞窟壁画、世界最古か?
スペイン北部のエル・カスティージョ洞窟に描かれた手形。同じ洞窟内の赤い丸模様は、世界最古の洞窟壁画の可能性があるという。
Photograph courtesy Pedro Saura via Science/AAAS

スペイン北部の洞窟内に描かれた先史時代の赤い丸模様や手形を新たな手法で年代測定した結果、世界最古の洞窟壁画と判明した。「ネアンデルタール人=洞窟壁画の先駆者」論を裏付ける最有力の証拠となるかもしれない。
事実なら、われわれ現生人類との文化的隔たりが狭まることになる。ネアンデルタール人と現生人類は別の種とする考えが一般的だが、人種の違いにすぎないと主張する議論が高まる可能性もある。
チームが調査したのは、スペイン北部のビスケー湾沿いにある11カ所の洞窟壁画。その1つ、エル・カスティージョ洞窟に描かれたシンプルな赤い丸模様が世界最古の壁画と見られている。
イギリス、ブリストル大学の考古学者で研究を率いたアリステア・パイク(Alistair Pike)氏によると、遅くとも4万800年前の作画という。測定結果が正しければ、フランス南部にあるショーベ洞窟の壁画(3万7000年以上前)を抜いて世界最古に躍り出る。
パイク氏のチームは、ウランの崩壊速度をベースに年代を入念に測定した。検体には、壁画表面に付着した炭酸カルシウムに含まれるウランを使用。なお、鉱物を原料とする塗料には、ウランも、放射性炭素年代測定に必要な炭素も含まれていないため、手がかりにはならなかった。
一部の壁画は、間接的な手法を使用して以前の推定年代より古いことを証明した。例えば、年代の確度が高い別の遺跡と画法を比較したという。
◆年代測定の確実性
新たな年代が判明し、一部の壁画はネアンデルタール人の作画の可能性が出てきた。ネアンデルタール人は、3万~4万年前までヨーロッパ大陸に住んでいたヒト属の一種。現生人類も約4万1500年前に同大陸に渡り、共存する時期があったと考えられている。
ただし、同じ作者の可能性が指摘された壁画は今回が初めてではない。
2012年初頭、スペイン南部のマラガで、4万2000年前のネアンデルタール人が描いたとされる洞窟壁画が見つかった。別のチームの発見だが、パイク氏によれば異論も多いという。「年代は洞窟内の炭片から測定され、壁画は調べていなかった。当時、誰かがあの洞窟で火を使ったのは確かだろう。しかし、それだけで壁画も同じ年代と特定するのは無理がある」。
フランス、トゥールーズ大学の名誉教授で洞窟壁画の専門家ミシェル・ロルブランシェ(Michel Lorblanchet)氏は、パイク氏の説も十分ではないと指摘する。
もっと決定的な証拠が出ない限り、ネアンデルタール人の作画とは断定できないという。「今のところ客観的な証拠はない。しかし、現生人類が描いたとも証明できないのが実情だ。早く何らかの事実が判明することを、私も期待して待っている」とロルブランシェ氏は話す。
一方、研究チームのパイク氏は、「遅くとも4万800年前」と発表した点を強調する。「年代測定に利用した方解石(炭酸カルシウムの鉱物)は、壁画が描かれた数千年後に形成された可能性もある。ただし、まだ確固とした証拠がないのは確かで、より多くの壁画の年代を測定できるよう、現在もサンプル採取を続けているところだ。結論は数年以内に出るだろう」。
今回の研究は、6月15日発行の「Science」誌に掲載されている。
2012年6月15日 ナショナルジオグラフィック
2012年06月25日 Posted by かるの at 14:03 │Comments(0) │先史時代
百万年前の晩さんグリル?…原人が植物焼いた跡
【ワシントン=山田哲朗】人類の祖先が百万年前に火を使っていたとする調査結果を米ボストン大などの研究チームがまとめ、米科学アカデミー紀要に発表する。
研究チームは「最も古い火の使用の証拠」としている。
これまで火の使用については、イスラエルの遺跡で見つかった約79万年前のたき火の跡が最も古いと考えられてきた。150万年前とする研究もあるが、山火事と人為的な火の使用跡の区別は難しく、立証されていない。
研究チームは南アフリカにある長さ140メートルの「ワンダーウェーク洞窟」の地層を顕微鏡で分析し、植物の灰や焼けた骨片を確認した。洞窟内に広く分布していることから、野火などではなく、ホモ・エレクトス(原人)が草や葉を燃やして料理していたと推定した。どうやって火をおこしたかは不明だが、同大のフランセスコ・ベルナ博士は
「野火から取ってくることもできただろう」
としている。
(2012年4月3日- 読売新聞)
2012年04月12日 Posted by かるの at 14:03 │Comments(0) │先史時代
北アメリカ先住民、起源はシベリアか
アメリカ先住民の起源はシベリア南西部の山岳地帯にあることが、最新の遺伝子調査によって明らかになった。
調査を行ったのはアメリカ、ペンシルバニア州フィラデルフィアにあるペンシルバニア大学で人類学を研究するセオドア・シューア(Theodore Schurr)氏のチーム。アルタイ山脈一帯に居住する複数の民族を対象にDNAを分析したところ、ある特徴的な遺伝子変異を発見。現代の北アメリカ先住民と共通する変異であることが判明した。
シューア氏によると、シベリア人(シベリアに住むモンゴロイド系住民を指す)とアメリカ先住民とが近縁関係にあるという説は、大航海時代にアメリカ大陸を訪れたヨーロッパの探検家たちの指摘まで溯る。探検家の中にはアジアにも足を踏み入れた経験のある者がおり、シベリア人とアメリカ先住民との身体的な類似性に気付いたと考えられる。
今回得られた遺伝学的データについてシューア氏は、「北アメリカ先住民と共通するシベリア人の基本的な遺伝子型を、より精密に特定できるようになる」と話す。
◆シベリア人とアメリカ先住民とのつながりを追う
研究チームは1991年から2003年にかけて、アルタイ地方に点在するさまざまな民族の居住地を訪れ、遺伝子のサンプルを収集した。
天然資源が豊富なアルタイ地方について、「はるかな昔から人間にとっては住みやすい場所だったに違いない」とシューア氏は語る。現生人類の最も近い近縁種、ネアンデルタール人の旧石器時代まで遡るという。
研究チームは書面での同意を得た上で約500人のシベリア人からDNAサンプルを採取した。多くの人々は交通の未発達な場所に居住しており、アメリカ人と接触した経験はない。また、アメリカ、カナダ、メキシコのアメリカ先住民およそ2500人からもサンプルを得ている。
採取の際は、地域や個人の希望に応じて、「頬の内側の粘膜」、「口内洗浄液」、「血液」の3種類から選んでもらった。
シベリア人とアメリカ先住民のDNAを分析する際、研究チームはヒトゲノムの中から2つの対象に注目した。母親からのみ受け継ぐミトコンドリアDNA、そして父親からのみ受け継ぐY染色体である。
長年に渡って蓄積されたこの2つの遺伝子配列の突然変異を調べれば、それぞれの民族が出現し新たな土地へ移住した時期を正確に特定できるとシューア氏は説明する。
調査の結果、アルタイ地方の民族からは、父系由来の遺伝子配列で約1万8000年前に生じたと見られる突然変異が1カ所見つかった。現代のアメリカ先住民にも認められる遺伝子マーカーだという。
これに先立ってシューア氏らは、シベリア人とアメリカ先住民のミトコンドリアDNAに共通の突然変異を発見している。この変異は、今回新たに見つかったY染色体の変異と同時期に発生したことも判明した。
以上の結果はその他の遺伝子調査ともよく符号しており、アルタイ地方の民族が約1万5000年前に北アメリカ大陸への移動を開始した有力な証拠になる。ちなみに、現在シベリアと北アメリカ大陸との間はベーリング海峡で隔てられているが、当時はベーリング地峡によって陸続きになっており、アルタイ地方の民族が経由した可能性が高い。
◆アメリカ先住民の起源を正確に特定することは困難
アメリカ先住民のDNAがアルタイ地方に由来すると考えるシューア氏の見解について、フロリダ大学の人類学者コニー・マリガン氏は、「結論を少々限定し過ぎている」と指摘する。「東アジア中央部の全域まで可能性を広げるべきだ」。
シューア氏が発見したミトコンドリアDNAやY染色体の突然変異は、中国やモンゴルなど他のアジア地域でも発見されているからだという。「その他のアジア民族を候補から除外しないことが重要であり、同じように遺伝子変異に関する年代測定を行う必要がある」とマリガン氏は述べる。
「いずれにせよ、人間が地球全域に生息環境を拡大できたのは、自ら新たな特質を獲得して環境に適応する存在だからだ。われわれの認識を、調査結果が見事に裏付けていることだけは間違いない」。
シューア氏の研究は、「American Journal of Human Genetics」誌2月10日号に掲載される。
(2012年2月6日- ナショナルジオグラフィック)