消えゆく手描き映画看板…絵師が教室を開講
看板絵を描く八条祥治さん(大阪市西成区で)=守屋由子撮影

廃れゆく映画宣伝用の手描き看板を見直してもらおうと、看板絵師の八条祥治さん(52)(大阪市西成区)が絵画教室「映画絵倶楽部」を始めた。
「映画の街」と呼ばれた大阪・ミナミで描いてきたが、約5年前から老舗映画館の撤退が相次いだ上、コンピューターグラフィックス(CG)の看板が増え、味わい深い手描きは注文もなくなった。八条さんは「CGでは出せないぬくもりを知ってもらいたい」と話す。
八条さんは、看板絵師だった父親が1981年、自宅隣に工房を開いた際、建築会社を辞めて弟子入り。当時、ミナミには映画館が立ち並び、1か月に約30枚は看板を描いたという。
投影機を使ってベニヤ板に輪郭を写し、水彩絵の具を塗り重ねて肌の質感、衣類のつやを描く。
「看板を見上げて映画館に入るお客さんを見るとうれしかった」
と、華やかだった時代を懐かしむ。俳優の原田芳雄さんの名前を『芳子』と書き間違え、掲げてから気づくなど、手描きならではの失敗もあった。
しかし、シネマ・コンプレックス(複合型映画館)の進出で老舗映画館が次々閉館し、受注は激減。2007年4月、「道頓堀東映」のさよなら上映会を手がけたのが最後になった。
飲食店の内装などを引き受け、工房は維持するが、映画看板が途絶えることが気がかりでならない。映画の興行が終わるとその上に次の上映作品を描き直すため、大半は残っていないが、わずかに残った「独裁者」「ローマの休日」などの看板を、工房の一角に設けたギャラリーで展示してきた。
教室は工房で開いており、八条さんは「描いてもらうことで楽しさが伝わる。技術を身に着ければ自主上映会などのイベントの看板づくりに生かすこともできる」と話す。
参加者が持ち寄った映画のパンフレットなどを題材に制作する。費用は1時間1000円。A4判だと約4時間で仕上がる。
[ 2009年8月30日 (読売新聞)