2・26事件:処刑された中尉の遺言など展示 山口・下関



 1936(昭和11)年2月26日、陸軍の青年将校らが首相官邸などを襲撃し、高橋是清蔵相らが殺害されたクーデター「2・26事件」から26日で75年。事件決起人の一人で、死刑になった山口県下関市出身の田中勝陸軍中尉の、長男への遺言(複写)、写真など十数点を、下関市にある忌宮神社が初展示している。処刑を前に、田中中尉の家族を思う心情が伝わってくる。入場無料、3月6日まで。

 田中中尉は下関市の旧制豊浦中(現県立豊浦高)から熊本陸軍幼年学校へ進み、陸軍士官学校を卒業。野戦重砲兵第7連隊第4中隊に所属した。軍用トラックなどを率いてクーデターに加わり、軍法会議にかけられ、25歳で処刑された。

 獄中で妻の妊娠を知った田中中尉は「遺志」と称し、「万事努力せよ」「健康に注意せよ」「母の言を承ること 即ち父の言を承ると思ひ一念母の言に従ふべし」と長男への遺言をしたためた。辞世の句は
 「たらちねの親の恵みの偲(しの)ばれて只(ただ)先立って我は淋(さび)しき」。

 事件後、田中中尉の母親は地元の寺で、処刑された19人と自決した3人の菩提を弔っていた。母親の死後も田中中尉の遺品は保管されたが、決起した青年将校らはさまざまな記録から抹消され、豊浦中の卒業名簿にも田中中尉の名前はない。

 今展示は地元の歴史愛好家でつくる「下関歴史探求倶楽部」(大濱博之代表)と忌宮神社が初めて企画。大濱代表は
 「クーデターと聞けば、複雑な感情の人も多いだろう。一つの史実として75年前を振り返る機会になれば」
と話す。

 戦時中、陸軍生活を送った下関市在住の直木賞作家、古川薫さん(85)は
 「テロリズムは絶対否定しなければならないが、将校らには『疲弊する農村のための世直し』という志があった。今、北アフリカでは民衆のクーデターが国の在り方を変えており、改めて2月26日は『暴力』には両面があることを考えさせてくれる」
と話している。【尾垣和幸】


[ 2011年2月25日(毎日新聞)



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2011年02月27日 Posted byかるの at 09:04 │Comments(0)人物伝

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