海舟の妹の目から幕末描いた大作「お順 勝海舟の妹と五人の男」


★諸田玲子さん「お順 勝海舟の妹と五人の男」毎日新聞社・各1680円

 不良オヤジに努力家の息子。幕末の“父子鷹”、勝小吉と海舟を間近に見て育ったお順は、25歳年上の洋学者、佐久間象山の妻となり、父や兄に負けない波瀾の生涯をたどる。幕末の動乱期、志を持って生きたのは男だけではなかった。自らの意志を貫いた女性、順の目から、幕末を描きあげた大作である。(文・青木千恵、写真・大山実)

 --お順への興味は

 「2007年に作家の半藤一利さんと対談して、“勝海舟の妹のお順が面白いですよ”と勧められたのがきっかけ。私が子供の頃によく遊んでいた清水山(静岡市)のふもとのお寺に順のお墓があるとわかり、俄然、興味がわきました」

 --父、初恋の人、夫、兄、夫の死後恋に落ちた人…。5人の男たちが、順の人生を彩ります

 「順の周りにいた実在の男たちが非常に個性的なので、5人の男とのやり取りから順の生涯と幕末史を描く構成にしました。父は放蕩者、夫は変わり者、惚れた相手は怠け者と、順はなぜかダメ男に縁がある(笑)。でも、5人それぞれに魅力があり、自立心旺盛な順が彼らに惹かれた理由がわかりましたね」

 --兄は英才の勝海舟

 「幕軍も官軍も大勢の武士が戦って命を落とす中、平和裡に生きのびた海舟を批判する声は多くて、私もあまり好きではありませんでした。しかし、この小説を書いて、凄い人だと思いました。とにかく忍耐強い。一方、父の小吉は気性は激しいが人情味豊か。不遇だけど一生懸命に生きている親を見て、海舟や順のような強い子が育ったのでしょう」

 --史料調べは

 「大変でした。勝海舟の史料が大量にあっても、順をはじめ女性についてはほとんど書かれていない。ごく断片的にある事実を点として、点と点の間を想像で結んでいきました。順がなぜ、25歳も年上で、子供もいる象山に嫁いだのか。象山の死後、なぜ俊五郎のようなダメ男に恋してしまったのか。この2点における順の心情が最大の謎でした。断片的な史実から何をとらえて、人物の気持ちをどう解釈するかが重要。納得できないと書けないですから」

 --順の目でみた幕末

 「順が象山に嫁いだのは、当代随一の学者の仕事を支えることで、自分も世の中の役に立ちたいと考えたからだと思います。幕末期は、国の大事に対し国中の人々が志を強くした時代でした。各地で優れた思想や志士が輩出した熱は、女たちにも伝わっていた。象山と吉田松陰、海舟と坂本龍馬ら、私利私欲を捨てた人々が続々登場して、順の生涯を描くのはとても気持ちがよかったですね。幕末は血なまぐさくて苦手でしたが、井伊直弼の愛人の生涯を『奸婦にあらず』で書き、さらに今回、順を書いて、また幕末を書きたいなと思うようになりました」

 ■もろた・れいこ 1954年、静岡県生まれ。上智大学文学部英文科卒業。1996年『眩惑』でデビュー。2003年『其の一日』で吉川英治文学新人賞、07年『奸婦にあらず』で新田次郎文学賞。『天女湯おれん』『美女いくさ』『炎天の雪』など著書多数。

【“歴男”も増えて】

 最近は歴史好きの女性が増え、“歴女”という言葉も生まれている。

 「若い男性には“草食系”が増えているというし、今は荒々しく戦うと生きにくい時代なのだと思います。戦国武将の生きざまなど、過去の日本人の姿を憧憬したブームなのかもしれないですね」(諸田さん)

 昨年は、『お順』のほか4作の単行本と6作の文庫を上梓。平安から現代まで描く時代は極めて広い。「勝小吉と海舟については、子母澤寛氏の名作『父子鷹』があり尻込みもしますけれど、歴史の見方はひとつではないんですね。私は“歴男”も増えてもらいたい。日本人はもっと、自分の国の歴史を知った方がいいと思いますから」

■「お順 勝海舟の妹と五人の男」毎日新聞社・各1680円

 将軍家に仕える直参だが無役で微禄、しかも放蕩者の父・勝小吉のせいで、勝家の家計は常に火の車。そんな勝家の末娘で、父に似て気性が激しい順の、波乱の人生を描いた長編歴史小説。


[ 2011年4月1日 (夕刊フジ)



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2011年04月06日 Posted byかるの at 09:16 │Comments(0)人物伝

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