文化財保護行政 担当職員の育成強化を
仙北市の県史跡・白岩焼窯跡が適切な行政の指導がない中、立木伐採のための重機で破損するという問題が今年4月に起きた。能代市では新市庁舎建設のため、6年前に市自ら国に申請した登録有形文化財の市議会議事堂の解体方針が打ち出され、論議を呼んでいる。いずれのケースも、問われるのは文化財保護に対する自治体の姿勢だ。これを機に、県内各市町村は文化財保護の在り方を再点検してほしい。
市町村合併もあって、全県的に文化財保護担当者は減少傾向にある。そこでまず必要となるのが個々の担当者の質を一層向上させることだ。担当者をある程度長期間同じポストに据えて専門性を高めるなど、人材育成への配慮を求めたい。その上で文化財の保存・活用に向けて的確な対応、判断ができる体制づくりが必要だ。
仙北市では、窯跡の所有者が史跡指定地を観光スポットとして整備しようとして市の担当者に相談した際、担当者が口頭で了承。正式な現状変更申請の手続きも、現場への立ち会いも行わないまま作業が進められ、結果として貴重な文化財を傷つけてしまった。
能代市の議会議事堂の場合は解体、すなわち文化財の登録抹消を前提に議論が進められていること自体、全国的にも異例だ。登録有形文化財の抹消は、災害などやむを得ない事情で文化財が復元できないほど破損した場合にしか前例がない。市の担当部署が適切に対応しているのか疑問を抱かせる。
しかし、これらを一部の特殊な例と見ていいのだろうか。県内市町村の文化財保護担当者は10年前の2002年度には計171人だったが、本年度は81人と半数以下に減少した。職員の削減が進む中で、文化財保護行政だけを特別扱いするのは難しいという事情もあるだろう。だが、市町村合併で自治体そのものが69から25に減り、各市町村の担当者は少ない人員で広くなった自治体全域の文化財保護に取り組んでいるのが実情だ。
一方、仙北、能代の両市のように、観光面で文化財を活用しようとしたり、所在地に道路・建物などの建設計画が持ち上がったりする場合もある。そうした際に、文化財保護の観点から適切な助言や指導、調整を行うことも文化財保護行政の重要な役割であり、高い識見が求められる。貴重な文化財は一度傷つけられたり、失われたりすれば、元に戻すのは困難であることを忘れてはならない。
人材育成は市町村にだけ任せておけばいい課題ではない。県教育委員会は毎年度初めに市町村の担当者を集めて研修会を開いているが、最低限の事務手続きの説明などで終わっているという指摘もある。県教委には多様な研修、研さんの機会を増やしながら、市町村との連携を強化し、市町村の人材育成を支援していくことを期待したい。
(2012/09/13 秋田魁新報