「狩猟文化残したい」マタギ体験ツアー復活
福島県南会津町の猟友会員らが今年、「マタギ文化体験ツアー」を再開させた。
エコブームで自然体験ツアーが人気を得るなか、まちおこしとともに、古くからの伝統を残していきたいという思いがある。ツアーに同行した。
人口約2100人の南会津町館岩地区(旧館岩村)。先月に1泊2日(参加費2万9800円)で行われたツアーは、中心部の湯ノ花温泉から車で約20分の峠で行われた。客は、22~68歳の首都圏などの男女9人。地元の猟友会員19人が案内役を務めた。
2メートルもの積雪の中、ウサギの足跡を見つけ、「巻き狩り」と呼ばれる集団猟のウサギ狩りから始まった。
追い手である「 勢子 ( せこ ) 」が、声をあげながら獲物を囲い込むように追い上げ、「たつ」という銃で仕留める人が上方で待つ。参加者は二手に分かれ、たつ側になった記者は、参加者と横一列に並び、息を潜め、林の奥に目をこらした。「エーイッ」「ほっ、ほう」。勢子の声が次第に近くに聞こえてくると、自分が追いつめられているような感覚になった。右手の方から一発の銃声。しかし、ウサギの逃げ足は速かった。
正午から約3時間、雪上を歩き、ブナの木に残る熊の爪跡や逃げるウサギは見たものの、獲物は得られなかった。
夕飯は、熊や鹿の料理が振る舞われた。
「山の神様からの頂き物だと思って食べております」
猟友会長の平野隆一さん(68)は、猟の前には必ずお神酒をささげ、山の神様に感謝する習慣があると説明した。その言葉に、記者は「いただきます」の意味を実感。参加者の男性は「料理って、こんなにありがたいものなんだな」とつぶやいた。
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館岩地区では1970年頃まで、農業に不向きな山が多い集落を中心に、多くの家が猟で生計を立てていたという。平野さんも、子供の時から父に付いていき、勢子として手伝った。
「たつはベテランの仕事。自分も早く鉄砲を撃てるようになりたいと思っていた」
と振り返る。当時、ムササビやテンの毛皮は1匹で米1~2俵に相当する貴重なもの。だが、猟では生活できないようになり、平野さんも今は漬物店の経営で生計を立てる。
文化を伝える手段として1990年から体験ツアーを行っていたが、補助金が打ち切られて2005年に中止。今年度、町主催の地域おこし事業が始まったのを契機に、「館岩といえば猟文化だ」と補助金なしで定員を区切って復活させた。
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翌日の午前中も約3時間、山を歩いたが、獲物は得られずに終わった。それでも、川崎市の会社員藤尾健二朗さん(26)は
「マタギはもっと怖い人かと想像していたけど、良い人たちばかりで、猟のことや普段の暮らし方までいろいろな話が聞けた」
と満足げ。横浜市の女性会社員(36)も「森の専門家の目を通して見る山は面白いだろうと思って参加したが、クマの爪跡に気付くようになり、同じ雪山でも見え方が全然違った」と感想を語った。
同様のツアーは、秋田や青森などでも行われているが、最近は20~30代の女性が増え、リピーターも増える傾向にあるという。人気の秘密は、大自然の中で新たな知識を得られ、非日常の空間を楽しめることにあるようだ。
迎える側の平野さんは
「昔ながらの暮らしを多くの人に知ってもらい、それで伝統が大切にされ、文化が代々守られていけばありがたい」
と話している。
ツアーは来年も行う予定。(小沼聖実)
[ 2010年3月12日 (読売新聞)