松陰門下の幕末志士、吉田稔麿の伝記を復刻
吉田松陰の門下生で萩出身の幕末志士、吉田 稔麿 ( としまろ ) (1841~1864年)の伝記「松陰先生と吉田稔麿」の復刻本が、山口県周南市のマツノ書店から出版された。
原本は1938年に県教育会から刊行され絶版になったあと、同書店が90年に500部の復刻本を出版したが完売、稔麿について書かれた唯一の評伝として再版が待たれていた。新たに論文を加えるなどし、400部を発行した。
稔麿は、萩・松本村の下級武士の家に生まれた。江戸で黒船騒動を体験したあと、松下村塾で松陰に師事、高杉晋作、久坂玄瑞らとともに松陰門下生の四天王の一人とされた。幕府に勤王を説くために脱藩、江戸で幕臣に仕えたり、奇兵隊にも参加したりした。京都・三条の池田屋事変で新撰組と戦い、負傷して自害したとされる。
著者は教育家でもあった来栖守衛で、松陰の愛弟子に対する教育のあり方を記録し、稔麿研究のための資料保存などを目的に執筆。昭和初期に当時、萩にあった吉田家に残されていた稔麿や松陰らの多くの書簡、文書類を調べ、吉田家で逸話などを見聞きするなどしてまとめた。松陰の教育現場が具体的に書き表されたところもあり、松陰や幕末史の研究者たちにとって貴重な必携図書になっているという。
今回は三宅紹宣・広島大大学院教授と町田明広・佛教大非常勤講師の論文を載せ、内容の充実を図った。萩市特別学芸員の一坂太郎さんも巻末文を寄稿しており、
「幕末の動乱に身を投じた、一人の若き 草莽 ( そうもう ) の息吹が伝わる好著」
と記している。
[ 2010年8月4日 (読売新聞)