古代トランシルバニアは黄金郷だった?


古代トランシルバニアは黄金郷だった?
Photograph by Mihai Barbu Reuters
古代トランシルバニアは黄金郷だった?
 ルーマニア、トランシルバニア地方の遺跡から盗掘され、行方不明だった金のブレスレットが当局の手に戻り、科学的な調査が行われた。古代トランシルバニアには黄金の財宝が溢れかえっていた可能性があるという。

 首都ブカレストにあるホリア・フルベイ国立物理学原子力工学研究所の物理学者で、研究論文の著者ボグダン・コンスタンティネスク(Bogdan Constantinescu)氏は、「職人が金塊から螺旋状に削り出している。とりわけ贅沢な技法だったようだ」と述べる。

 2000年前のアクセサリーのほとんどは1キロ前後で、この重量には材料科学者ポール・クラドック氏も驚いて、
 「金が豊富だったことは間違いない」
と断言している。

 ダキア人は、古代ローマ人と同時代を生きた謎の民族だ。当時トランシルバニアを支配した彼らは文書による記録を一切残さなかったが、ブレスレットを見る限り多くの財宝を抱えていたようだ。ただし、同地域の山河は潤沢な鉱物資源に恵まれており、歴史家たちは以前から予想していた。

 トランシルバニア地方のサルミゼゲトゥサ・レジア遺跡では、24個のブレスレットが約10年前に盗掘され、12個を当局が奪還している。

 犯人は遺跡荒らしの厳罰を恐れて、ブレスレットは古代ギリシャの金貨を溶かして作ったと主張。多くの専門家が遺物の真正性を疑ったが、今回の調査により、サルミゼゲトゥサの金は古代ギリシャの金貨より純度が低いと判明した。

 さらに、ブレスレットは2000年以上前の品と明らかになる。証拠の1つは、長く地中に埋まっていたことを示す暗い染みだ。また、紀元前100~70年頃に生産された硬貨も同じ場所で見つかり、その頃に埋められたと考えられる(ただし、同時期の製作とは限らない)。

 また、素材の産地もトランシルバニアで間違いないようだ。化学的特徴が同地産の金と一致しており、遺跡に近い2本の川から採掘された可能性が高い。

 現在のサルミゼゲトゥサ・レジアは砦や寺院の痕跡がわずかに残るだけだが、ダキア文化最盛期の最後の数百年は宗教的、政治的な中心地だった。同文化は紀元前500年頃から、ローマ帝国に征服される紀元100年頃まで隆盛を極めた。

 ただし、ダキア人は文字を持たなかったため、文化の全容はわかっていない。情報のほとんどは、征服者ローマ人が書き残した文書に基づいており、「必ずしも正確ではない」とアメリカ国務省の外交官研修所(FSI)でルーマニア教習を担当するアーネスト・レーサム氏は指摘する。

 ダキア人に関する情報が足りない中、研究者はブレスレットの用途も懸命に探っている。

 前出のコンスタンティネスク氏によると、身に付けられた形跡がないため、アクセサリーではなかったようだ。同氏は、ダキアの唯一神ザルモクシスに捧げられた奉納品だったと見ている。中心地を守る防御壁の外側で数千年もの間、荒らされずに済んだ説明が成り立つからだ。
 「金は神の所有物だった。誰も手を出さなかったのは、天罰を恐れたからではないか」。

 ルーマニア、クルージュ・ナポカにあるバベス・ボリャイ大学の考古学者オーティス・クランデル(Otis Crandell)氏は、「宗教儀式で使われた可能性は十分にある」と第三者の立場で指摘する。

 さらに、商業目的で保管されていた可能性や、恩寵の印として王から臣下に下賜する意図があった可能性も捨てきれないという。「ただし単なる推量であり、すべてを取り戻して盗掘前の状態を再現しなければ結論は出せない」と同氏は語る。

 しかし再現は難しいとの見方が大半だ。1999年から2001年までの間、盗掘犯はブレスレットを掘り出し、闇ルートで一部を売り払ってしまった。彼らの供述によると、数個は大きな岩盤の下に隠されていたという。

 帰ってきた12個のブレスレットは現在、ブカレストのルーマニア歴史博物館で保管されている。残りの12個はいまだ消息が掴めていない。


[ 2011年1月24日 (ナショナルジオグラフィック)



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2011年02月07日 Posted byかるの at 21:01 │Comments(0)海外

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