正倉院の宝剣、国家の平穏願い埋納か
正倉院宝物の献納目録「国家珍宝帳」。2本の刀に正倉院から持ち出したことを示す「除物」の付せんが付いている

東大寺大仏殿の鎮壇具の中に、正倉院宝物から持ち出された「 除物 ( じょもつ ) 」があったことは、研究者も予想もしなかった発見だ。
除物となった経緯や埋納の意義を考える重要な資料となる。
「 国家珍宝帳 ( こっかちんぽうちょう ) 」に載る宝物六百数十点のうち、「除物」の付せんが付き、所在不明だった7点は光明皇后にゆかりが深く、〈1〉病気の皇后が手元に置いた〈2〉皇位継承のための贈答に使った――などの説があった。
今回の発見から、宝物を正倉院に納めるよりも大仏の近くに置いて、直接的に国家などの平穏を願ったことがうかがえ、皇后の深い信仰心が伝わってくる。
一方で、大仏殿への大刀などの埋納が、従来考えられていた地鎮の意味での「鎮壇」とは異なるとの見方が出てきた。大仏殿は完成済みで、皇后が天皇の冥福や自身の病気回復を願ったとの主張だ。
東京・上野の東京国立博物館で開催中の特別展「東大寺大仏―天平の至宝―」(12月12日まで)には鎮壇具のうち、別の刀「 金鈿荘大刀 ( きんでんそうのたち ) 」や水晶玉などが展示されている。その中にも、正倉院から持ち出された宝物が含まれている可能性がある。今後の調査・研究で、除物と鎮壇具を巡る謎が解明されることを期待したい。(大阪本社編集委員 柳林修)
[ 2010年10月26日 (読売新聞)