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人糞が明かす古代ローマ人の生活
かつてないほど大量に見つかった人間の排泄物の調査から、古代ローマ帝国の日常生活が明らかになったという。
何百袋もの排泄物をふるいにかけて調べる仕事と聞けば、誰でも顔を背けるに違いない。しかしイタリアでは、ある研究チームが喜び勇んでこの作業を進めている。
アメリカ、パッカード人文研究所主導のヘルクラネウム保存プロジェクトで責任者を務める古代ローマ研究者アンドリュー・ウォレスハドリル(Andrew Wallace-Hadrill)氏は、
「約2000年も昔の有機物で、臭いはまったく感じない。堆肥と同じだ」
と話す。
発掘された量は計10トン。ナポリ近郊の古代の町ヘルクラネウムの地下に造られた下水施設に堆積していた。古代ローマ時代のゴミや人の排泄物としては最大規模であり、集合住宅や商店から下水道を通って集まったとみられる。推定年代は紀元79年頃で、この年にベスビオ山が大噴火、ヘルクラネウムは有名なポンペイとともに埋没した。
「壊れたランプや陶器など捨てられた家庭用品のほかにも、宝石店の宝飾品や硬貨、半貴石も見つかっている」
とウォレスハドリル氏は語る。
プロジェクトチームは、
「ヘルクラネウムは沿岸地域の商人と職人の町で、ごく普通のローマ人が何を食べていたのか探ることができた」
と述べている。同チームはイギリス・ローマ研究所(British School at Rome)、ナポリ・ポンペイ考古学監督局と共同で本プロジェクトを進めている。
◆魚から果物、ハーブまで
堆積物から見つかった種子や骨、貝殻の破片などから、鶏や羊、魚をはじめ、イチジク、ハーブの一種フェンネル(ウイキョウ)、オリーブ、ウニ、軟体動物まで、バラエティ豊かな食生活がうかがえる。
「庶民が普段食べていたメニューは、医師が健康のために推奨するような素晴らしい内容だ」
とウォレスハドリル氏は語る。
「オオヤマネ料理など、珍味を楽しむエリート階級の美食ぶりは歴史的記録から明らかになっているが、庶民の食事については不明な点が多い。今後は、彼らの日常の食卓の様子が具体的にイメージできるようになるだろう」。
◆排泄物からローマ人の生活が見えてくる
堆積物が見つかった巨大地下構造のサイズは、総延長70メートル、幅1メートル、高さ2~3メートル。当初はヘルクラネウムの排水システムの一部と推測されたが、排水口は見つかっていない。
「トイレの排泄物やダストシュートに投棄されたゴミは、1カ所に集められ堆肥にされた」
とウォレスハドリル氏は推測する。
調査の第一段階は、段階的にふるいにかける作業から始まった。イギリス、オックスフォード大学のマーク・ロビンソン氏率いるチームは、まず目の粗いふるいで陶器や骨、次に目を細かくして木の実や種子など小さな物をより分けていった。
「少しずつ段階を踏めば、より多くの情報が得られる」
とウォレスハドリル氏は説明する。
「今後は顕微鏡で分析し、細菌感染や寄生虫感染など古代ローマ人の健康状態についても明らかにしていく予定だ」。
調査が始まって約10年。集められた堆積物は774袋に達したが、調査が終わったのはわずか70袋だという。
「すべて詳しく調べるとなると、一生かかるかもしれないね」。
[ 2011年6月24日 (ナショナルジオグラフィック)